スクリーム4:ネクスト・ジェネレーション 
SCREAM 4
2011/アメリカ R15+ 監督:ウェス・クレイヴン 主演:ネーヴ・キャンベル
 支那蕎麦を食するのはいいのだが、1日ほど時間を置くと、また支那蕎麦を食したくなる。で、支那蕎麦を食し、また1日ほど時間を置くと、阿呆なのか、これまた支那蕎麦を食したくなるのである。
 これは油中毒に由来する反復で、何度も同じ店に、同じ時間帯に行く辺り、ワガがワガをトレースする完璧なる反復なりけりと堂に入っておると、何度も何度もちゅるちゅると麺を食らい、ずびずばと汁を啜るワガをどこか冷めた目で見ておるワガも存在するのであって、そんな高位のワガの視点、これをメタ視点、ちゅうん、ですか。こうしたものを拗らせると、支那蕎麦を食するだけに留まらず、何をするにも自分が阿呆のように思えてきて、人生の暗渠を行くが如き気持ちになり、胸には虚無が広がり、あらゆるものが相対化・無力化されて何をしてもちくとも楽しくなく、わあ、と絶叫すると発作的にビルの屋上から身を投げた、なんて末路は嫌だな。僕は嫌だな。
 ところがメタとハサミは使い様、なんてことを申して、反復行為のうちに頭上に生じてくるメタ視点を、こう、上手いこと、クイッとやると、勢い増して米鬼撃滅、何となくはくはくしたものになって、反復行為にメタ視点を添えて提示する、なんてこともできるのであって、色々な映画がそれをやっちゃ大受けし、それをやっちゃ白けられ、味噌と糞の分別がつき辛くなったので御座るよ。

 で、まあ、たぶん、糞ではなくて味噌の方だとは思うが、『スクリーム』シリーズは映画内映画、ホラーの法則を逆手に取る、などの小細工を散々に弄した挙句、メタ視点をシリーズに施療することに成功し、3作も出たのち10年も経って4作目を出すなど、視点がより高次へ高次へと高まり、メタ、メタメタ、メタメタメタとメタタタタなことになっておる。そんな高次元を女子高生の下履きでも覗き込むかのように下から見上げてみたのだが、はは、これは陳腐な視点しか持ち合わせぬ下郎の独り言でございますが、どことなーく、何となーく、原点回帰って言うかさ、リブートしたいんちゃうけ? と思わせるような安心感・安定感があったのだね。

 映画内映画『スタブ』も7作目まで公開されており、もうネタ切れだからタイムスリップの要素まで取り入れちゃったよなんて会話で人を煙に巻いた矢先から、つるるるるるっ、つるるるるるっ、なんつて電話が鳴って、「お前の好きなホラー映画はなんだ?」と例のメッセージが聞こえてくる。あんた誰よ、いたずらはやめなさいよ、と定番のレスポンスを返していたら、ゴーストフェイスがだっだーんと出現、ふんふん言って犠牲者を刺し殺し、ウッズボローの連続殺人事件がまた始まりました、という導入部分からして、1~3作目に続く反復なのだが、実はもうかなりメタ的。『SAW4』の悪口をのたまいつつ、『ファイナル・デスティネーション』みたいね! なーんて台詞を言わせてみたり、それら中堅どころのジャンル映画の名を挙げながら、敢えて80年代スラッシャーの装いを見せるという、よそ様の作品をばりばりに意識した上でのメタ。他にも大量に名作ホラーの名を列挙したり、ホラーオタクは死なないんだ!→殺す。ゲイは死なないはずだけど!→殺す。という、予断を許さない殺人は、主人公シドニー(ネーヴ・キャンベルの続投!)の主人公ゆえの身の安全を担保するものではなく、最後の最後の最後まで観客を翻弄する。大体が無茶ら苦茶らなこじつけであるからして、今回犯人を当てる、フーダニットは不可能に近いのだが、その真犯人ですらもメタにメタを重ねて挙句が結局シリーズ通しての安牌に落ち着いてしまったというところもまた良し。

 とは言い条、時間は流れる、時代は変わる、この不可逆性に殉ずるかのように、世代的なガジェットも持ち込まれておって、殺人のネット中継やケータイ電話によるSNSなんかはその最たるもの。にも関わらず、肝心要のスラッシュ・シーンはといえばナイフでざっくり、ナイフでぐっさり、といったアナログ極まりない手法。ここら辺にウェス・クレイヴン逡巡と決断があったようにも思えるのだが、メタをメタたらしめるには変に屈託することなくして、真正面から魅せてくれようとしたのではなかろうか。だとしたらこのナイフでざっくり、ナイフでぐっさりは、ホラーファンに対する10年越しの福音である。

 真犯人のしょうむないしょうむない動機も何のその、冒頭から「今さら続編!?」という観客の気持ちをキャラクターに代弁させるやり口や、オリジナルを改悪すんな、馬鹿野郎。といったエモーショナルが本作の、ひいてはスラッシュ映画の払暁っぽくもあり、庶人である乃公などはホラー映画の地肩の強さを再確認すると同時に、丹田の辺りに楽しさを感じてならんのである。そうした意味で本作はシャイニーであり後光に彩られており、ついでに言うとオリジナルキャストの3人の老け具合も気にならんくなるのである。例え20年後に『スクリーム5』が公開されたとしても俺は観るね。たは。


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