著作権法改正案

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    違法ダウンロードを罰則化する著作権法改正案が成立したが、ネット上では、不満の声が相次いでいる。うっかり知らずにダウンロードしたら逮捕されるのか、といったことだ。

    違法にアップロードされた音楽ファイルなどをダウンロードすることは、2010年1月の改正著作権法施行で違法になった。しかし、そこに罰則はなかった。

    CD販売不振の音楽業界から猛プッシュ?

    その理由は、文化庁の著作権課によると、個々の行為が軽微であることと、家庭内の行為を取り締まるのが難しいことがあったという。

    ところが、今回の改正案成立で、12年10月1日から違法ダウンロードに対し、懲役2年以下または200万円以下の罰金という重い罰則が科せられることになった。ただし、著作権者からの被害届がないと罪に問えない親告罪になる。

    きっかけは、政府提出の法改正案に対し、衆院文部科学委員会でクレームが付いたことだった。自民・公明両党の委員から6月15日、違法ダウンロード罰則化の修正法案が出され、民主党も同調した。その背景には、CDの販売不振に苦しむ音楽業界からの猛プッシュがあったとされている。

    自公両党が法案を出す動きについては、識者からも、異論が噴出していた。音楽ファイルなどが違法アップロードされたか分からずに、うっかりダウンロードしてしまう可能性が1つだ。また、警察が一罰百戒を狙ったり、別件捜査に使ったりなど、恣意的な捜査が行われるのではないか、との懸念も強かった。こうした点から、日弁連などは、罰則化に反対している。

    修正法案が、参考人質疑なども行われず15日中に衆議院本会議で賛成多数で可決され、参院で成立する見通しになると、ネット上で、不満の声が渦巻いた。ユーチューブやニコニコ動画では、動画を一時ファイルとして保存して再生するプログレッシブダウンロードの方式が採られているため、「アクセス出来ない様にしないと我が家でも逮捕者出ちゃう」といった疑問さえ上がった。

    自民党「罰則がないと実効性が伴わない」

    こうした反発に配慮してか、参院文教科学委員会では2012年6月19日、ダウンロード違法化について賛否双方の立場を聞く参考人質疑が行われた。しかし、その翌20日には、ほとんど審議されないまま、参院で成立してしまった。

    文化庁著作権課では、法改正に不満が上がっていることについて、「いろいろなご意見があることは承知しています」とする。しかし、罰則化については、議員が直接法案を出したもので、文化庁の責任で出したものではないとして、「まったくコメントできる立場にはありません」としている。

    なお、ユーチューブなどのプログレッシブダウンロードやストリーミングについては、「2年前の法改正時と同じで、視聴するだけなら違法には当たりません」と説明する。ただ、一時ファイルを別のソフトで視聴したり、別の記録媒体に保存したりする場合は違法になるという。

    一方、修正法案を出した自民党の政務調査文部科学部会では、担当者が「決して急いでいたわけではありません」と強調した。

    「罰則がないと実効性が伴いませんので、本当なら2年前に設けたかったことがあります。今回は、国民に周知徹底する期間が終わったと判断したから提案しました。審議会にかける政府のやり方では時間がかかりますので、議員の判断が迅速な意思決定に必要だったということです」

    政府がなぜ罰則化しようとしなかったかについて、文化庁著作権課では、「法改正からまだ2年しか経っていませんので、審議会では別の事項を議論していました」と説明する。修正法案については、「立法府で必要とご判断になったのだと思います」とだけ言っている。


    J-CASTニュース

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    "壇俊光弁護士(写真は
    「Interop Tokyo 2012」にて)"


     違法ダウンロードへの刑事罰導入を盛り込んだ著作権法改正案が6月20日に成立した。10月1日に施行され、違法にアップロードされた音楽ファイルなどをダウンロードする行為に2年以下の懲役または200万円以下の罰金(親告罪)が科されることになる。

     また改正法では、映画などのDVDをPCのHDDにコピーする「リッピング」も違法行為として規制する。具体的にどのような行為が規制され、何が罰則の対象になるのか。「Winny裁判」で開発者側の弁護人を勤めた壇俊光弁護士(北尻総合法律事務所)に聞いた。

    ――今回の著作権法改正により、具体的に何をしてはいけないことになるのでしょうか。

    壇弁護士 次の3つのことが挙げられます。


    1. 暗号によるアクセスコントロール技術が施された市販DVDやゲームソフトを、PCのDVDリッピングソフトやマジコンを使ってリッピング・吸い出す行為が私的複製の範囲外になり、規制の対象になった。
    2. アクセスコントロール技術を解除する「マジコン」やDVDリッピングソフトの販売などが禁止された。
    3. 違法にアップロードされた音楽ファイルなどを違法と知りながらダウンロードする行為が刑罰の対象になった。

    ●アクセスコントロール技術とは

     映画などの市販DVD(DVD-Video)には「CSS」という暗号型技術が導入されており、これに対応した正規のDVDプレーヤーなどでのみ再生が可能な仕組みになっている。ソフトの再生(アクセス)をコントロールする技術なのでアクセスコントロール技術と呼ばれ、有料放送のスクランブルやB-CASカードなどもアクセスコントロール技術の1つだ。

     いわゆるDVDリッピングソフトは、1999年に当時15歳のノルウェー人プログラマーが開発した「DeCSS」というコードを使い、CSSを解除してPCのHDDなどに複製して再生可能にしている。

     著作権法では従来、「信号付加方式」によるコピー防止技術(コピーコントロール技術)を回避したコピーについて、私的複製の範囲外として違法としてきた。アナログVHSビデオの映像に専用信号を加えてダビングを防止する技術などを解除することがこれに当たる。従来はCSSを解除する行為はこれに含まれず、購入したDVDであれば、購入した本人がPCのHDDなどにコピーして楽しむ分には私的複製の範囲として認められてきた。

    ――個人が買ったDVDでもリッピング行為はアウトになるのでしょうか。

    壇弁護士 規制の対象になるのは、暗号によるアクセスコントロール技術を解除して行うリッピング行為そのものです。これに該当するリッピング、つまり通常の映画DVDなどのリッピングであれば全てアウトですし、リッピング専用機能の機器は規制の対象となります。

     また現時点でも、リッピング機器の販売は不正競争防止法では違法行為です。

    ――一般の音楽CDのリッピングも規制の対象になりうるのでしょうか。

    壇弁護士 リッピングが規制の対象になるのは、「特定の変換」を要する場合です。条文のできが悪いのですが、(CDのリッピングの際に行われる)変換は規制対象に含まないと考えられています。

     ですので一般のCDにはコピーコントロール技術、アクセスコントロール技術が施されていないので、リッピングはコピーコントロールCD(CCCD)でもない限り、現在の解釈では大丈夫と思われます。

    ●編集部注

    CCCDにはコピーコントロール技術が施されており、これを意図的に回避して行うリッピングは違法行為だが、「「普通のソフトでやってみたらコピーできてしまった」場合は問題ないという見方がある。

    ――暗号型アクセスコントロール技術が施されていないDVDのリッピングは合法ですか。

    壇弁護士 大ざっぱに言えば、暗号化がなされていなければ、大丈夫です。

    ――購入したゲームソフトを、自分で「マジコン」を使って吸い出すのは合法ですか。

    壇弁護士 違法です。ただしDVDリッピングと同じで、刑事罰はありません。

    ――YouTubeやニコニコ動画では、動画を一時ファイルとして保存しながら再生する「プログレッシブダウンロード」という方式が採られています。これは問題ないのでしょうか。

    壇弁護士 現時点では手元に確定した改正条文がないので断言できませんが、「ダウンロード違法化」の段階であれば手段に制限はなかったので、そのままであればYouTubeなどのプログレッシブダウンロードも規制対象になると思われます。

    著作権法では、違法にアップロードされたファイルをPCなどに複製して保存する行為を違法ダウンロードとして禁じている。文化庁はYouTubeなどでの再生時キャッシュは著作権法上の複製に当たらず、違法動画を再生しても問題ないという見解を示しているが、条文の読み方によって解釈が変わるため「文化庁のそのような解釈は刑事実務では通用しない」という指摘もある。

    ――YouTubeやニコニコ動画で作者が「ダウンロードOK」としたものなら、ダウンロードしても問題ないのですか。

    壇弁護士 いいえ。作者が著作権処理をちゃんと行っているとは限らないので、「ダウンロードOK」と書いていた場合であっても、例えばこの作者の動画が他人の著作物を違法に使用しており、ダウンロードする人がそれが違法であることを認識していれば、処罰の対象となります。

    ●「警察による恣意的運用の危険性が高い」

     壇弁護士は、改正法が「警察によって恣意的に運用される可能性が高い」と指摘する。「いちいち警察が立件することは手間的に難しいので、警察が“けしからん”と判断した場合にだけ立件することになる。しかも幇助(ほうじょ)と絡めると、処罰の範囲がものすごく広い。サーバ管理者も幇助の対象となりかねないため、1つのダウンロードにつき1つの幇助が成立すると、ものすごい数の幇助罪になる」

     また刑法施行法では、著作権法に関する罪を日本人の国外犯処罰規定としている。つまり今回の改正法は「日本人が米国でYouTubeを見ると、(米国内では違法でなくても)刑罰に処せられかねない法律になっている」という。

     「違法ダウンロード刑罰化は適用範囲が論理破たんしており、また、警察による恣意的運用の危険性が高い。ダウンロードやDVDリッピングも一律に禁止されるべきではなく、ケースバイケースで違法とするべきでないものもある。再度、フェアユース既定の創設を検討するべき」と壇弁護士は指摘している。

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