任天堂には、産業の突然死を乗り切る戦略が必要

任天堂が26日に発表した2012年3月期連結決算は、売上高が前期比36.2%減の6476億円、純損益は432億円の赤字に転落したとのことです。

任天堂の赤字というのは私も記憶がなかったので、あらためて調べて見たところ、赤字は1981年に連結業績を公表するようになって初めてとのことでした。

私がマッキンゼーに入社した当時から、すでに任天堂は「超優良会社」として認知されていて、日経ビジネスなどでも特集されることが多かったことを覚えています。

その任天堂が赤字に転落しました。

業績推移を見てみると、2007年までは多少の上下を繰り返しながら一定の売上高を保って推移していました。

ゲーム会社というのは、ゲームがヒットするか否かによって業績が変動してしまうので、売上高がある程度「波状」になるのは致し方ありません。

そして2008年を迎え、「DS」と「Wii」という超ヒット商品が登場し、売上高は一気に3倍近くまで跳ね上がり、同時に利益も積み上がりました。

この売上と利益に連動するように固定費が増加してしまった、というのが今回の赤字を生んだ原因だと思います。

売上高が大きく減少したとは言っても2007年以前よりも高い水準ですから、6年前と同じ固定費の構造であれば今の売上高でも「黒字」だったのです。

DSとWiiによる好業績が未来永劫続くと錯覚してしまったということでしょう。これが経営の難しいところであり、恐ろしいところでもあると私は思います。

「コンソール型」から「スマホ型」への変化の中で、「産業の突然死」という状況が生まれ、任天堂はそこに巻き込まれた形です。

任天堂の岩田社長は「Wiiの次世代機は3次元対応」などと発表していますが、この対策は「コンソール型」として一発ヒットを狙うという従来型のものですから、上手くいくのかどうか私には疑問です。

「スマホ型」という構造変化への対策が必要ではないかと感じます。

スマートフォンのゲーム機能はかなりパワフルになってきています。携帯電話に搭載された「カメラ機能」を思い起こしてしまいます。

当初は大した機能ではなかったものが、最近では画質が上がり、さらには動画まで撮影できるほど機能がパワーアップしています。

任天堂はスマートフォンのゲームの機能についてもう少し真剣に分析しないと、このまま「コンソール型」の没落とともに這い上がれないかも知れません。

日本を代表する優良会社だけに非常に惜しいと感じます。

「2次元でダメなら3次元」ではなく、もう少し大局的に状況を分析し、次なる一手を打ってもらいたいと思います。

ヤフーとアスクルの提携に、あまり期待できない理由

ヤフーは27日、オフィス向け通販最大手のアスクルと業務・資本提携すると発表しました。

ヤフーがアスクルに329億円を出資して議決権の42.6%を握る筆頭株主になり、ネット通販部門を強化する考えとのことです。

今のアスクルの現状を見ていると、まさに絵に描いたような「低迷ぶり」だと思います。

誕生当時はコクヨとの差別化もされていて大成功でしたが、その後のイノベーションが全くありません。

数年前、私はアスクルの今後を見据えた時には、次のような戦略をとるべきだと意見を述べたことがあります。

アスクルは、「既存の中堅中小企業のネットワークを社員レベルで活用」するべきであり、具体的には「事務用品だけでなく、旅行の手配など社員のあらゆるニーズを拾っていく」ことが重要だと。

実際アスクルを使っている中堅中小企業の事務員の女性は、最近では文房具よりも「持ち運ぶのが重たいお茶や水」を注文できる点に有り難さを感じているそうです。

こうしたニーズをさらに発展させて、大企業が提供しているような従業員に対する旅行斡旋部門のようなサービスを、アスクルがまとめて提供することは可能だと思います。

そんなアスクルに対してヤフーが出資して筆頭株主になるとのことですが、この戦略も私には疑問です。

ヤフーとしては競合の楽天に負けないよう物流を強化する目的で、アスクルに出資したのだと思いますが、もしそうであるならば「10年前」に実行しておくべきです。

先日ヤフーは「将来的にスマートフォンに力を入れる」ために社長の交代まで行いました。

それなのにアスクルという「過去の事業」を買う意味がどこにあるのでしょうか。

もしアスクルとの事業展開を進めるのであれば、井上前社長が退任する必要はなく、むしろ井上前社長のほうがうってつけの人材だと思います。

ヤフーにしてもアスクルにしても、どちらも中途半端な戦略をとっていて、両者が手を結ぶと聞いてもあまり興奮できる組み合わせとは言えません。

ヤフーもアスクルも、どこを目指すべきなのかという点をもう一度練りなおしてもらいたいと思います。

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